二次創作 2024/09/28 Sat 世界の果てまでクラスメイツ雪風カドスト読了前提の來潜。#エイトリ #來潜続きを読む 潜は基本的に他人にペースを乱されることがない。 自分が先に、相手のペースを乱すからだ。情報を手に入れるための手駒はたくさん持っているし、相手の行動を読むのもたやすい。 それなのに、この男だけはいつも例外だった。「……來人」 義手の定期メンテナンスの帰りにお気に入りのバーに立ち寄ると、カウンターには嫌というほど見知った姿があった。陽の光を紡いだような金髪に、すらりとした体躯。オーダーメイドのスーツを嫌味なく着こなす、いかにも貴公子然とした男。 レッスンの後、投資家としての仕事があるのだとか言っていたのは記憶していたが、まさかこんなところで鉢合わせるとは。「潜、奇遇だな!」 トカイの貴腐ワインは諦めて店を出ようと踵を返しかけたのだが、わずかに手遅れだったらしい。無駄によく通る声で名前を呼ばれ、潜は舌打ちした。「せっかくだから一緒に飲もう。キミが好きそうなワインもあるぞ」「……知ってるよ」 なにせ常連だ。 はあ、とため息をついて、潜はカウンターに腰掛けた。美酒を愉しむために訪れたのだ。よく考えたら來人のせいでそれを諦めるのも業腹である。(この男のことは無視しよう) そう決めてカウンター席に座り、バーテンダーに「いつもの」と告げた。 わざわざ二つ席を空けたのに、來人はお構いなしだった。飲みかけのグラスを手に、潜の隣りに座り直す。およそ遠慮というものを知らない男なのだ。潜が不愉快さを隠すことなく眉を顰めてみせても、まったく気にしていない。 この店には楓や添も連れてきたことがあるし、彼らにも口止めはしなかった。 確かに他の人間に紹介してもいいとも言ったが、よりによって來人に教えたのはどちらだろうかと考えていると、來人自身があっさり犯人の名を明かした。「潜もこの店によく来るのか? 俺は先日、添に教わって雪風と来たんだ」 添のほうか。來人との確執を察していないわけでもないだろうに。先日ワインを少し飲ませたことへの意趣返しあたりかもしれない。しかしながらワインに罪はない。不快感は美酒で流し込んでしまえとばかりに、潜はグラスを傾けた。「いい飲みっぷりだ」 すぐによくわからない賞賛が飛んでくる。 來人のほうも既に気に入りの銘柄を見つけたようで、どうやらボトルをキープしているらしい。このバーの存在がHAMAハウス中に広まるのも時間の問題だろう。 ほとぼりが冷めるまで、別の店に通うのもいいかもしれない。「そういえば、明日の午後空いてるか?」「……仮に空いてたとしても、それをお前に言うと思う?」 質問には答えずそう返すと、來人は叱られた犬のような顔をした。 まさか、潜が「空いてる」と答えるとでも思っていたのだろうか。それでよくもまあ「キミのことを理解したい」などと言えたものだ。 來人は顎に手を当てて、深刻そうな顔をした。 いかにもシリアスな雰囲気だが、おそらく碌でもないことしか言わないだろうな、と潜は経験則から予想した。「実は好きなSF小説が映画化されて、その試写会のペアチケットを貰ったんだ。それが明日の午後なんだが……」「お前と映画なんて、絶対に嫌だね」「だが、実話が基だと言われる地底人との邂逅がテーマの映画で――」「どうしてその映画に僕が興味を持つと思うわけ? チィツァに振られのたなら、プルシュとでも行きなよ」 にべもなく跳ねつけると、來人はむっと顎を引いた。「確かに、主任には出張が入ったからと断られたし、幾成にも見せてやりたいが、俺は潜と親交を深めたいんだ」「僕は深めたくない」 それ以前に、そんな怪しげな映画を観て深まるのは親交ではなく心の溝だろう。 仮に恋愛ができる人間だったとしても初デートで振られるタイプだろこいつ、と胡乱な眼差しを隣りに向けたが、当の本人は真剣な表情で話しを続けた。「先日、雪風と研修旅行に行ったんだが、一緒に出掛けることで相手を理解するきっかけになると学んでな」「だから僕と出かけたら、僕を理解できるかもって?」 馬鹿らしい。 潜は肩をすくめた。呆れて、嘲笑すら浮かばない。 空になったグラスを押しやって、潜は頬杖をついた。バーテンダーが静かにグラスを片付けるのを目で追う。「世界の果てまで二人で旅しても、お前に僕は理解できないよ」close
クラスメイツ雪風カドスト読了前提の來潜。
#エイトリ #來潜
潜は基本的に他人にペースを乱されることがない。
自分が先に、相手のペースを乱すからだ。情報を手に入れるための手駒はたくさん持っているし、相手の行動を読むのもたやすい。
それなのに、この男だけはいつも例外だった。
「……來人」
義手の定期メンテナンスの帰りにお気に入りのバーに立ち寄ると、カウンターには嫌というほど見知った姿があった。陽の光を紡いだような金髪に、すらりとした体躯。オーダーメイドのスーツを嫌味なく着こなす、いかにも貴公子然とした男。
レッスンの後、投資家としての仕事があるのだとか言っていたのは記憶していたが、まさかこんなところで鉢合わせるとは。
「潜、奇遇だな!」
トカイの貴腐ワインは諦めて店を出ようと踵を返しかけたのだが、わずかに手遅れだったらしい。無駄によく通る声で名前を呼ばれ、潜は舌打ちした。
「せっかくだから一緒に飲もう。キミが好きそうなワインもあるぞ」
「……知ってるよ」
なにせ常連だ。
はあ、とため息をついて、潜はカウンターに腰掛けた。美酒を愉しむために訪れたのだ。よく考えたら來人のせいでそれを諦めるのも業腹である。
(この男のことは無視しよう)
そう決めてカウンター席に座り、バーテンダーに「いつもの」と告げた。
わざわざ二つ席を空けたのに、來人はお構いなしだった。飲みかけのグラスを手に、潜の隣りに座り直す。およそ遠慮というものを知らない男なのだ。潜が不愉快さを隠すことなく眉を顰めてみせても、まったく気にしていない。
この店には楓や添も連れてきたことがあるし、彼らにも口止めはしなかった。
確かに他の人間に紹介してもいいとも言ったが、よりによって來人に教えたのはどちらだろうかと考えていると、來人自身があっさり犯人の名を明かした。
「潜もこの店によく来るのか? 俺は先日、添に教わって雪風と来たんだ」
添のほうか。來人との確執を察していないわけでもないだろうに。先日ワインを少し飲ませたことへの意趣返しあたりかもしれない。しかしながらワインに罪はない。不快感は美酒で流し込んでしまえとばかりに、潜はグラスを傾けた。
「いい飲みっぷりだ」
すぐによくわからない賞賛が飛んでくる。
來人のほうも既に気に入りの銘柄を見つけたようで、どうやらボトルをキープしているらしい。このバーの存在がHAMAハウス中に広まるのも時間の問題だろう。
ほとぼりが冷めるまで、別の店に通うのもいいかもしれない。
「そういえば、明日の午後空いてるか?」
「……仮に空いてたとしても、それをお前に言うと思う?」
質問には答えずそう返すと、來人は叱られた犬のような顔をした。
まさか、潜が「空いてる」と答えるとでも思っていたのだろうか。それでよくもまあ「キミのことを理解したい」などと言えたものだ。
來人は顎に手を当てて、深刻そうな顔をした。
いかにもシリアスな雰囲気だが、おそらく碌でもないことしか言わないだろうな、と潜は経験則から予想した。
「実は好きなSF小説が映画化されて、その試写会のペアチケットを貰ったんだ。それが明日の午後なんだが……」
「お前と映画なんて、絶対に嫌だね」
「だが、実話が基だと言われる地底人との邂逅がテーマの映画で――」
「どうしてその映画に僕が興味を持つと思うわけ? チィツァに振られのたなら、プルシュとでも行きなよ」
にべもなく跳ねつけると、來人はむっと顎を引いた。
「確かに、主任には出張が入ったからと断られたし、幾成にも見せてやりたいが、俺は潜と親交を深めたいんだ」
「僕は深めたくない」
それ以前に、そんな怪しげな映画を観て深まるのは親交ではなく心の溝だろう。
仮に恋愛ができる人間だったとしても初デートで振られるタイプだろこいつ、と胡乱な眼差しを隣りに向けたが、当の本人は真剣な表情で話しを続けた。
「先日、雪風と研修旅行に行ったんだが、一緒に出掛けることで相手を理解するきっかけになると学んでな」
「だから僕と出かけたら、僕を理解できるかもって?」
馬鹿らしい。
潜は肩をすくめた。呆れて、嘲笑すら浮かばない。
空になったグラスを押しやって、潜は頬杖をついた。バーテンダーが静かにグラスを片付けるのを目で追う。
「世界の果てまで二人で旅しても、お前に僕は理解できないよ」
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